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『シガ食堂物語 - 小さな夢の行方』

  • 第一章 - 開店の日

    あの日、朝から私は夢現の中これは現実なのか夢なのか自問自答する間も無く準備に追われていた。頬をつねるとまさにそれは現実で、でもどこか夢の中のようなそんな気持ちのまま2016年6月1日、シガ食堂の扉が初めて開いた瞬間だった。

    小鳥の囀り、葉の擦れる音を聞きながらここに至るまでの道のりを思い返す。夢だった自分の店。それを実現させるために、どれだけ多くの人の助けがあったことか。両親、家族、友人、そして地域の人々。その思いを胸に、私は私の人生にとっての大きい一歩を踏み出した。

  • 第二章 - 静寂の日々

    開店から数ヶ月、シガ食堂はまるで時が止まったかのように静かだった。私は一人で接客から調理、片付けまでこなしていた。広い店内に自分の足音だけが響く。そんな日々が続いた。

    時折、当時90歳のおばあちゃんが手伝いに来てくれた。「頑張っとるね」と言いながら、ゆっくりではあるが。その姿を見ていると、不思議と勇気がわいてきた。友人たちも時々顔を出してくれた。「今日はどう?」「何か手伝おうか?」そんな言葉の一つ一つが、私の心の支えだった。

  • 第三章 - 涙の訳

    毎日のように涙を流していたことを今でも鮮明に覚えている。閉店後、暗い店内で一人、帳簿とにらめっこをしながら、今日もまた赤字だったことを確認する。市街地から離れた旧道沿いの店。偶然通りかかる人など、まずいない。それでも、諦めるわけにはいかなかった。

    ある日、わざわざ足を運んでくれたお客様がいた。「ここまで来るのに迷っちゃって」と笑いながら話してくれる。きっと道に迷いながら来てくれたのだろう。そう思うと、胸が熱くなり、涙が止まらなくなった。帰り際、そのお客様は「また来るね」と言ってくれた。その言葉が、どれほど私の心を照らしたことか。

  • 第四章 - 運命の転機

    そして、運命の日が訪れた。オープンから4ヶ月後のことだ。前日、いつものようにテレビをつけていると、人気ドラマで「瓦そば」が紹介されていた。「へぇ、うちのメニューだ」と軽く考えていたが、翌朝、驚くべき光景が広がっていた。

    店の前には長蛇の列ができていたのだ。愛知県内では珍しかった瓦そばを求めて、人々が押し寄せたのだった。驚きと喜びで、私の心は躍った。「こんなに多くの人が...」言葉にならない感動が込み上げてきた。

    その日は開店から閉店まで、ほとんど休む暇もなく働き続けた。疲れはあったが、それ以上に大きな充実感があった。やっと、やっと私の食堂が認められた気がした。

  • 第五章 - 仲間たち

    急な忙しさに、私一人では対応しきれなくなった。そんな時、多くの友人が心配して手伝いを申し出てくれた。「大丈夫?」「手伝おうか?」そんな優しい言葉とともに、スタッフが一人、また一人と増えていった。

    接客経験者もいれば素人もいる、ただ、熱意は誰にも負けなかった。失敗もあったが、それを笑い飛ばしながら、一緒に成長していった。お客様への接し方、料理の作り方、効率的な動き方。日々の経験が、私たちを強くしていった。

  • 第六章 - 新たな一歩

    今、開店当時のメンバーと一緒に働けていることが、何よりの幸せだ。あの日、震える手で開けた店の扉。そこから始まった小さな食堂の物語は、まだ続いている。

    時には困難もある。でも、今も昔も乗り越える力がある。お客様の笑顔、仲間たちの支え、そして自分自身の成長。それらが、私の宝物だ。

    シガ食堂は、これからも新しいページを重ねていく。どんな物語が待っているのだろう。それを想像すると、胸が高鳴る。明日も、また新しい一日が始まる。私は今日も、感謝の気持ちを込めて、店の鍵を開ける。